半球間抑制と脳卒中後の機能改善

脳卒中患者において健側半球の脳活動の亢進が、運動機能に悪影響を与えることが報告されていいます。このようなな健側大脳半球の過活動は、半球間不均衡(Interhemispheric Inhibition; IHI)と呼ばれます。

低頻度rTMS治療等により健側大脳半球を抑制(≒半球間不均衡の是正)をはかることで、慢性期脳卒中患者の上肢機能の改善が得られることも明らかとなっています。

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ただ一方で、皮質下病変を有する脳卒中患者において、健側大脳半球の運動野が運動遂行と有意に関連すること(PMID: 16364955, 14749291)、健側前頭前野への抑制的TMSにより運動機能が低下することが報告がされています(PMID: 20091792)。

上肢運動麻痺の改善に健側大脳半球の脳活動が与える影響については、一見矛盾するような結果が報告されています。この点について病期や重症度が影響しているのではないかと考えられています。

Di Pinoらはレビューにおいて半球間不均衡と構造残存レベルの関係について次のようにモデルを示しています(PMID: 25201238)。

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Di Pino G, et al. Nat Rev Neurol. 2014;10(10):597-608より

1.損傷が軽度な場合、半球間不均衡が生じないほうが機能改善が大きい。
2.軽度例において、半球間不均衡を認める場合は機能予後が不良となる。
3.重度例では半球間不均衡による代償的改善が生じうる。

つまり、脳損傷が軽度な場合には損傷半球での賦活化を目的となり、脳損傷が重度な場合には両側大脳半球の賦活化が有用ではないか、という仮説です。前者については最初に述べたようにほぼ確立された概念として良いと思います。後者については今後治療介入や脳機能画像を含めてさらなる検証がなされていくものと期待されます。

また、病期という点でも、IHIは発症早期には存在せず慢性期に形成されるという報告もあり、半球間不均衡を改善させるという治療選択が全てに脳卒中に適用となるわけではないようです。

今後は今回の記事に関係するような論文も紹介していければと思っています。

国際統計分類ファミリー(ICD, ICF, ICHI)

国際統計分類ファミリーについてまとめます。

疾患についてはICD-11、生活機能(障害)はICF、介入についてはInternational Classification of Health Intervention(ICHI)というコードがWHOより示されています。下のスライドがわかりやすいです。

 

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WHO国際統計分類協力センター(http://www.who-fic-japan.jp/about.html)より引用

ICFについてはリハビリテーションの世界で多用されていますが、あくまで生活機能の分類であり、リハビリテーションのために設計されたものでは必ずしもありません。

介入の分類であるICHIは「いっちー」と読むそうです。WHOウェブサイト(https://mitel.dimi.uniud.it/ichi/)では"Finalisation of ICHI is planned by the end of 2020"とされており、現時点ではβ版とされています。

このICHIですが、例えば「筋力増強訓練」は下記のコードとなるようです。

1 - Interventions on Body Systems and Functions

 10 - Interventions on the Musculoskeletal System

  MU - Muscle functions

   MU2.PH.ZZ Training muscle functions

MU2はTarget(部位)でありmuscle function、PHはAction(行為)でこの場合はtraining、ZZはmeans(行為の方法やプロセス)で分類不能とのことです。

この他、経皮的肝生検の場合は、Targetが肝臓、Actionは生検、Meansは経皮的、となるとのことです。

TargetはICFの大分類に近いようです。また、リハビリテーションの手技はActionでいうところのPH(training)に分類されるでしょうか。

ICHIには現時点で7000ものコードがあるようです。臨床や研究で使用するには何らかの整理が必要そうです。

循環器病対策基本法の英訳

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循環器病対策基本法と基本計画を紹介するperspectiveがCirculationに掲載[PMID: 34085868]されています。

循環器病対策基本法は"The Cerebrovascular and Cardiovascular Disease Control Act"、循環器病対策基本計画は"Japanese National Plan for Promotion of Measures Against Cerebrovascular and Cardiovascular Disease"が英訳であることが示されています。英語論文で記載する際にご活用ください。

循環器病対策基本法における"循環器病"には脳卒中が含まれているのですがちょっとわかりにくいです。英訳には脳卒中(cerebrovascular disease)が明示されていますのでこちらのほうが伝わりやすい気がします。

www.mhlw.go.jp

循環器病対策基本計画には循環器病(脳卒中・心臓病)に対するリハビリテーションを含む各種取組が記載されています。一部を下記に抜粋しますが、これ以外にも失語症高次脳機能障害に対する支援、就労支援、循環器病の知識の啓発、研究推進も取り上げられています。また、「2040 年までに3年以上の健康寿命の延伸及び循環器病の年齢調整死亡率の減少」が全体目標として掲げられています。
f:id:physiatrist:20210802232541j:plain以下引用です。
「循環器病対策推進基本計画」4.個別施策(2)保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実⑤リハビリテーション等の取組
(現状・課題)循環器病患者においては、社会復帰という観点も踏まえつつ、日常生活動作の向上等の生活の質の維持向上を図るため、早期からの継続的なリハビリテーションの実施が必要となる場合もある。脳卒中患者では、急性期診療を行った後にも様々な神経症状が残ることが多い。一般的には、急性期に速やかにリハビリテーションを開始し、円滑に回復期及び維持期のリハビリテーションに移行することが求められ、医療と介護の間で切れ目のない継続的なリハビリテーションの提供体制をより一層構築していく必要がある。リハビリテーションと同時に合併症の治療が必要な場合や合併症の治療が優先される場合もあり、個々の患者に応じた適切な対応が求められる。また、患者がその目的や必要性を十分に理解した上での再発予防、重症化予防、生活再建や就労等を目的とした多職種によるアプローチが重要である。心血管疾患患者の管理においては、特に、心不全等で入退院を繰り返す患者が増加しており、再発予防及び再入院予防の観点が重要である。運動療法、冠危険因子是正、患者教育、カウンセリング等を含む多職種による疾病管理プログラムとして心血管疾患におけるリハビリテーションを実施することが関連学会より提唱されている。患者が継続的にリハビリテーションを実施するためには、専門家を育成しつつ、地域の医療資源を含めた社会資源を効率的に用いて、多職種が連携して取り組む体制を構築する必要がある。
(取り組むべき施策)急性期から回復期及び維持期・生活期までの状態に応じたリハビリテーションの提供等の取組を進める。脳卒中患者においては、地域の医療機関が連携し、患者の状態を踏まえた適切な医療及び介護サービスを継続して提供できるよう、地域連携クリティカルパスも活用しつつ、急性期の病態安定後、機能回復や日常生活動作の向上を目的とした集中的なリハビリテーションの実施が有効であると判断される患者には速やかにリハビリテーションを開始し、回復期に切れ目なく移行できる連携体制を構築する。また、合併症の発症等により集中的なリハビリテーションの実施が困難な患者に対しては、どのようなリハビリテーションを含めた医療を提供するか検討する必要がある。維持期・生活期にかけて、患者の状態に応じた、生活機能の維持及び向上を目的とした医療、介護及び福祉に係るサービスを提供するとともに、リハビリテーションを十分に実施できる体制を維持する。心血管疾患患者においては、疾病管理プログラムとして、リハビリテーションを急性期の入院中から開始し、回復期から維持期・生活期にかけても継続することが重要である。状態が安定した回復期以降には、リハビリテーションを外来や在宅で実施することも見据えつつ、地域の医療資源を含めた社会資源を効率的に用いて多職種が連携する体制について、その有効性も含めて検討する必要がある。高齢化に伴い、循環器病に嚥下機能障害や廃用症候群など、複数の合併症を認めることが増加しており、複数の合併症に対応したリハビリテーション等を推進することについても検討する。

脳卒中後上肢麻痺に対する迷走神経刺激とリハビリテーションの併用療法

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上記研究がLancetに掲載されています。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00475-X/fulltext

2018名を対象としたRCTであり、vagus nerve stimulation (VNS group)とコントロール群に割り付けて治療を実施。上肢FMA値はVNS群で5·0(SD 4·4)、コントロールで2·4(3·8)、 (群間差2·6, 95% CI 1·0–4·2, p=0·0014)との結果です。

すごいところはコントロール群に対してもVNS機器の埋め込みをしているところ。

VNSとリハビリ併用では、リハ単独と比べて、皮質脊髄路シナプス結合が3倍となるという基礎的研究も背景にあるようです(PMID: 29371435)。

機器埋め込み手術が必要となる点がハードルですね。

VNS群でのFMAの改善は5点ですが、他のニューロリハ治療と比較するとそれほど高くない感じもします。今後普及するかどうかは他の治療との優位性が侵襲性を超えるかどうかがkeyでしょうか。

今更ですがはじめまして、とあるphysiatrist(リハ科医師)です。こんな感じで論文紹介をしていこうと思います。宜しくおねがいします。